今回は、『腰痛を理学療法とバイオメカニクス的視点で診ていくことは必須』というテーマで解説していきます。
なぜか?
みなさんの多くが、腰痛を有する患者さんに、運動療法を行うと思います。
ただし、運動療法だけでは、全ての患者さんの腰痛が軽減するとは限りません。
運動療法を行う際に、腰部ではどのようなメカニカルストレスがかかっているのか、
これを理解することで運動療法の質の向上、理学療法評価の質の向上につながってきます。
まずは腰痛とバイオメカニクスについて簡単に説明していきます。
腰痛とは?
腰痛とは、何らかの原因により、腰部に発生した疼痛であり、腰痛を伴う疾患群の総称でもあります。
発生原因
・内臓性
・血管性
・神経性
・心因性
・脊椎性
この5つに分類されます。
病態
・器質的腰痛
(傍脊柱起立筋とその周辺組織に由来する腰痛、脊柱以外の臓器に由来する腰痛)
・非器質的腰痛
(精神医学的問題、心理社会的問題による腰痛)
この2つに分類されます。
バイオメカニクスとは?
バイオメカニクス(biomechanics)とは、生物の構造や運動を力学的に探求したり、その結果を応用したりすることを目的とした学問である。 Wikipediaより引用
このバイオメカニクスを8つの領域に分類することができます。
バイオメカニクスの領域
①循環器系(心臓、血管、各種の弁構造、血液の性質)のバイオメカニクス
②流体力学(血流、脳脊髄液、O2、CO2)からのバイオメカニクス
③身体各部位の構成組織(骨、筋、靭帯、その他)を材質と捉えたバイオメカニクス
④ヒト身体運動および生物運動の特徴(運動力学的側面)を対象したバイオメカニクス
⑤衝突(交通事故など)に関するバイオメカニクス
⑥人工臓器。人工関節のバイオメカニクス
⑦移植臓器(皮膚、骨、軟骨、靭帯、内部臓器など)のバイオメカニクス
⑧その他
参考)西田正浩:バイオメカニクス.人工臓器36(3):204-206,2007
この8つの場面すべてに、理学療法は関係していると言われています。
それでは、本題の「脊柱を構成する組織および関節のバイオメカニクス」について解説していきます。
脊柱を構成する組織および関節のバイオメカニクス
椎間板
椎間板は、線維輪と髄核から構成される組織です。
この線維輪の役割は大きく分けて以下の3つになっています。
・椎体間の運動を可能にすること
・脊柱に加わった荷重の吸収と隣接椎体への伝達
・椎体間の運動により起こる椎体変位を復元すること
線維輪の特徴
線維輪は多重構造で線維輪の走行は、隣接する線維輪と交互に逆方向になっている。
また、この線維は緊張する層と弛緩する層が交互に並ぶため、椎体間が回旋することで、全線維の半数で椎体回旋による負荷に抵抗することが強いられます。
さらに、腹側よりも背側で線維の方向が粗のため、椎骨伸展よりも屈曲において、椎骨の動きを抑制する力がありません。
このような特徴があるため、椎骨間の屈曲回旋により線維輪の損傷が起こりやすくなっています。
では、線維輪の機能を適切に発揮するには、何が必要か?
それは、椎間高が適切に保たれていることが最低限必要になります。
その役割を担っているのが、髄核になります。
上記の組織の構造を知っていることで、なぜ腰椎椎間板ヘルニアが生じてしまうのかが、分かると思います。
脊髄と神経根
脊髄と神経根は脊柱管内を動くという報告や動かないという報告が出回っているため、以下に紹介します。
動くという報告⬇️
・脊柱や四肢の運動とともに脊柱管内で移動し伸張する
・頚椎屈曲で脊髄が頭側へ移動する
・仰臥位で下肢伸展挙上(SLR)を行うと、下肢に走行する末梢神経の牽引を介して腰椎下部の神経根が尾側へ牽引される
さらに、坐骨神経伸展に起因する神経根圧迫に関することも報告があります。
・30°以上SLRを行うとL4-5、L5-S1神経根に対する圧迫が急激に増大する
・SLRに内転あるいは、内旋、足関節背屈を加えると、さらに圧迫が増大する
・SLRに外転あるいは、外旋を付加すると、圧迫が減少する
との報告があります。
動かないという報告⬇️
頚髄と胸髄は歯状靭帯によって硬膜へ固定されているため、基本的には脊椎運動に伴って脊髄がが脊柱管内を動くことはない。
という報告あり。
動くことはないが、脊髄を牽引ストレスから守るシステムはあると言われています⬇️
腰仙髄、馬尾神経は歯状靭帯によって固定されていないため、
腰椎屈曲により、脊髄下端が頭側へ移動して脊髄終糸は延長。
腰椎伸展により、脊髄下端が尾側へ移動して脊髄終糸は短縮。
上記の特徴から脊髄を牽引ストレスから守るシステムはあると言われています。
このような脊髄、神経のバイオメカニクスを知っているだけでも、目の前の患者さんの神経症状を緩和できるかもしれません。
椎間関節
椎間関節は、上位椎骨の下関節突起と下位椎骨の上関節突起からなる関節です。
この椎間関節の機能は大きく分けて以下の3つになっています。
・腰椎運動に伴う隣接する椎骨間の転移と過剰運動の制御
・屈曲に伴う上位椎骨の前方への転移と過剰な回旋の制限
このように、椎間関節は制御する運動に特化した関節面の形状を有しており、形状は関節高位により異なっている。
椎骨間は剪断力、圧迫力、屈曲力が加わることで、椎間板、靭帯と共同してメカニカルストレスを受けてしまいます。
■剪断力は基本的に椎間板が約2/3を請け負っているが、剪断力が加わると、椎間板は前方へ移動するため、実質、椎間関節には、約1/3の負荷が加わっています。
腰椎が中間位であれば、剪断力は関節面の前面で負担できるが、屈曲位では、関節面の頭側の軟骨への負担が集中してしまいます。
■圧迫力は基本的に椎間関節で受ける構造には適していません。
椎骨間に加わる圧迫力の多くを椎間板が吸収しますが、椎骨が伸展すると、上位椎骨の下関節突起先端が下位椎骨の椎弓に接触し、その部位に圧迫力が加わるようになります。
さらに、伸展角度が大きくなると、椎間板でまかなっていた圧迫力も椎間関節への負荷に加わってしまいます。
また、椎間狭小化があると椎間関節への負荷はさらに増加し、椎間関節の疲労骨折の誘因になってしまいます。
■屈曲力は基本的に椎間関節が負担し、共同的に椎間板、棘上靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯も負担します。
最大屈曲時に、全屈曲の39%が椎間関節へ加わるとされており、無意識下で筋が活動していない状態で過剰に屈曲が生じると、棘上靭帯、棘間靭帯に損傷が起こり、次いで、椎間関節包、椎間板の損傷に繋がってしまいます。
さらに、屈曲に側屈が加わると、側屈方向の反対側の椎間関節包が最初に損傷を呈してしまいます。
まとめ
このように、上記の組織の特徴を知っておくことで、どの組織にどのようなメカニカルストレスが生じたのかと考えることができます。
さらに、臨床での推察の幅も広がり、理学療法評価の質も向上してくると思います。
上記の内容だけでなく、世の中にはたくさんの情報がありますのでそちらでも確認してみてください。
症状だけに目を向けないで、その根本となる、骨、筋、靭帯などの組織がどのような状態になっているかを把握していくことが大切になります。
確認する方法としては、エコー検査や画像診断などたくさんあり、理学療法を行う上でそれぞれ確認しておきたいですね。
この記事が、これからの臨床のヒントになれば、幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。