みなさん、コアトレって知っていますか?
セラピストなら誰しもが聞いたことがあると思います。
コアトレは腰痛患者さんに対する運動療法として効果があるということは、有名な話ですよね。
上司にもこのようなことを言われたことはありませんか?
コアスタビリティはどうなの?
コアトレしているのか?
このように多くの方がコアトレを推奨していますが、そもそもどうしてコアスタビリティが弱まるのだろうか?このような疑問が生まれてくるはずです。
そこで今回は以下の疑問を解説していきたいと思います。
・そもそもコアスタビリティってなに?
・どうしてコアスタビリティは低下するの?
・腰痛との関係性は?
この3点についてそれぞれ深掘りしていこうと思います。
本記事を読み終えることで、『コアスタビリティの機能を理解でき、腰痛患者さんに効果的な運動指導を提供すること』につながると思います。
それでは本題へ移りましょう。
目次
そもそもコアって何?
コア(core)とは「身体の中心部の筋に対する名称であり、頭部、頸部、肋骨、脊柱、骨盤をコントロールしている筋のこと」1)
と定義されています。
簡潔にするとコアとは「身体の軸(核)を構成しコントロールする筋群」となります。
このコアが静的・動的に安定することで、パフォーマンスを効率的に高め、実行できると言われています。
コアスタビリティとは?
コアスタビリティ(core stability)とは「運動連鎖の原則に沿って四肢末端に最適な力と動きの産生、伝達、制御を可能とする骨盤ー体幹の位置と動きを制御する能力」
と定義されています。
簡潔にするとコアスタビリティとは「身体を効率よく操作するのに必要な体幹能力」となります。
体幹においてのコアスタビリティは、静的なものだけではなく、動的に安定していることが必須と言われています。
次は臨床でよく見られる、腰痛のコアスタビリティの関係性について解説していきます。
腰部におけるコアスタビリティの役割は?
腰部におけるコアスタビリティとは、「腰部の安定性」のことを言います。
この「腰部におけるコアスタビリティ(腰部の安定性)」は、
・各腰椎のつながりに不整がない
・荷重などの力学的ストレスに対して支持や固定ができている
この状態のことを指します。
この状態をキープするために必須な部位が、腰部を取り巻く体幹筋群です。
代表的なものが2つあります。
・胸郭と骨盤をつなぐ表層のグローバルマッスル(腹直筋・内外腹斜筋)
・各腰椎の連結を強化する深層のローカルマッスル(腹横筋・腰部多裂筋・骨盤底筋群など)
グローバルマッスルとローカルマッスルの関係性
グローバルマッスル
グローバルマッスルは、腹直筋や腹斜筋群のような大きなモーメントアームを有する筋群のことで、体幹運動や固定に強く機能します。
このグローバルマッスルの活動に伴い、効率よく筋群が働くためには「運動軸の形成」が必要不可欠になってきます。
ローカルマッスル
「運動軸の形成」の役割を担っているのが、かの有名な「ローカルマッスル」ですね!
ローカルマッスルは腰椎を分節的に安定させ、かつ腹圧によって脊柱を伸展させて上方に支持し、腰部を固定する力を生み出します。
腹腔は、前面は腹横筋、背面は腹横筋が連結する腰背筋膜と腰部多裂筋、上面は横隔膜、下面は骨盤底筋群、これらの筋群で閉鎖された構造になっています。
これらの構成筋群が連動して収縮し腹腔体積を縮小させることで内圧を上昇させています。
動作と腹横筋の働き
健常者の腹横筋は、グローバルマッスルの収縮や四肢の自動運動に先行して活動します。
これは正常な反応で、運動開始前に腰部が安定していることを示しています。
腰部で例えると、
ローカルマッスル(腹横筋等)による腰部の固定が適切なタイミングで得られたあと、グローバルマッスル(腹直筋等)による体幹の運動を行うと、腰部に生じる力学的エネルギーが効率的に伝達するということです。
ここまで読み進めている方は、腰痛とコアスタビリティは密接に関係していることが理解できていると思います。
コアスタビリティがどのように影響している見ていきましょう。
コアスタビリティ機能と腰痛の関係性について
コアスタビリティ機能が低下すると腰椎の支持性が低下してしまい、腰椎に過剰な力学的ストレスが生じてしまいます。これらのストレスに対して、腰椎は安定化を図るためにさまざまな代償作用を働かせます。
代償動作を働かせた結果、
腰背部筋群を過度に緊張させて筋筋膜性の腰痛へと移行してしまうわけです。
さらにこれが長期間、腰椎椎体・腰椎椎弓へストレスが蓄積すると、椎体板変形、椎間性変性、脊柱管の狭窄変形などへとつながり、慢性的な腰痛を呈したりします。
では、コアの中でもどの部位が機能低下を起こすと腰痛に発展していくのか、みていきましょう。
1)腹横筋の機能低下
腰痛患者さんでは以下のことが言われています。3)4)5)
・腹横筋に活動低下による筋厚減少が生じること
・腹部引き込み運動中の筋厚増加が少ないこと
・腹横筋に活動低下に加えて活動遅延も生じること
が報告されています。
これらが生じることで、異常な力学的ストレスから腰痛に移行しやすくなります。
2)腰部多裂筋の機能低下
腰痛患者さんでは疼痛の要因として多裂筋の筋厚に非対称性が認められることが多く報告されています。6)
また、腰痛側の多裂筋の筋の断面積には減少を認められるとも報告されています。
このことからも、多裂筋の機能低下からの腰痛も考えることができますね。
3)横隔膜・骨盤底筋群の機能低下
横隔膜と骨盤底筋群は腹腔を形成するローカルマッスル筋群であり、腹筋群との機能的な連動性があります。
これらの機能不全は間接的に腹圧の低下を招き、腰部へのストレスにつながることは考えられますね。
4)グローバルマッスルの過活動
何度もお伝えしていますが、腰痛患者さんでは、ローカルマッスルの機能が低下する一方で、代償的にグローバルマッスルの筋活動が過剰になります。
これは、ローカルマッスルの機能低下をグローバルマッスルが補うためですが、腰痛の原因の上位に上がる事例です。
この重要なコアスタビリティ機能を低下させる因子は何か?
コアスタビリティ機能は腰椎のみならず多くの組織の連動・連携しているため、様々な影響を受けます。
特に、腰痛患者さんに認められる機能的問題点の多くが、腰痛の要因になると同時に、コアスタビリティ機能を低下させる因子になっています。
そして、コアスタビリティ機能が低下することが、腰部へのストレスを増大させ、腰痛や腰椎疾患を進行させる悪循環へとつながります。
それぞれ因子をみていきましょう。
1)腰椎ー骨盤アライメントの不良
腰痛患者さんに多い腰椎ー骨盤アライメントの変化
腰痛患者さんの腰椎ー骨盤アライメントは、
・腰椎前弯の消失および骨盤後傾姿勢を呈する場合
・下位腰椎が過前弯となって腰仙移行部の前弯角度が増強する場合
が特徴的です。
腰椎ー骨盤アライメントの変化の因子と影響
上記の腰椎ー骨盤アライメント変化そのものが腰椎分離症、前方・後方すべり症など、腰痛を発生・助長させる因子です。
腰椎ー骨盤アライメントは、頭側と尾側からの影響を受けて変化しやすいです。
頭側からの影響→胸椎後弯角が腰椎前弯角と相関関係を有していることから、胸椎の平坦化(flatback)が腰椎前弯を消失させるか、あるいは代償性に下位腰椎を前弯させることがあります。
尾側からの影響→hip-spine syndormeの概念から、股関節病変が骨盤あるいは腰椎までアライメントを変化させることがあります。
これらの腰椎ー骨盤アライメントの変化は腹横筋・骨盤底筋群の阻害因子となります。
腰椎の弯曲と腹横筋の活動の関係性
・腹横筋の収縮が腰椎の適正な前弯位を形成する。
・適正な腰椎前弯位が腹横筋の正常な収縮機能を生みだす。
腹横筋の収縮は、骨盤の前傾位・後傾位よりも中間位の方が正常に機能します。
また、腰椎も中間位である前弯位の方が腹横筋の収縮機構に適しています。
このような相関関係を有しているので、それから逸脱すると腹横筋の収縮機能を阻害してしまいます。
2)胸郭の可動性低下(胸式呼吸の制限)
腰痛患者さんでは胸郭の偏平化も腰痛をもたらす要因とされています。
胸郭の可動性低下は胸式呼吸を制限し、腹横筋、骨盤底筋群、腰部多裂筋の機能に悪影響を与え、腰痛をもたらす因子になっています。
もう少し詳しく解説します。
胸式呼吸が制限されている患者さんでは、腹式呼吸(横隔膜呼吸)が優位になりやすいです。
その場合は胸式呼吸と腹式呼吸が分離できなくなっていることが多いです。
胸式呼吸に偏ると腹横筋の活動が阻害されてしまいます。
本来、吸気時に横隔膜が収縮して下制すると腹横筋と骨盤底筋群は遠心性に収縮します。
こららの運動性によって呼吸が維持され、腹圧を上昇することができています。
しかし、胸式呼吸の制限によって横隔膜の過度の収縮が繰り返されるとどうなるか?
結果、腹壁は緊張を保てなくなり、弛緩したポジションが常に続くため、最終的に腹圧の低下が生じてしまいます。
引用文献
1)Dominguez RH, Gaide RS:トータル・ボディ・トレーニングー安全に着実に強くなるトレーニングブック(浅見俊雄, 中嶋寛之監修),ブックハウス・エイチディ, 1986
2)Kibler WB et al:The role of core stability in athletic function. Sports Med 36(3):189-198,2006
3)村上幸士・他:腰痛の有無にて比較した腹部筋群の筋厚ー超音波画像を使用して.理療科25(6):893-897,2010
4)Teyhen DS et al:Changes in lateral abdomin-nal muscle thickness during the abdominal drawing-in maneuver in those with lumbopel-vic pain. J Orthop Sports Phys There 39(11):791-798. 2009
5)Hidges PW, Richardson CA:Delayed pos-tural contraction of transverses abdominals in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disorders 11(1):45-56, 1998
6)Hides JA et al:Evidence of lubber multifidus muscle wasting ipsilateral to symptoms in pa-tients with acute/subacute low back pain. Spine 19(2):165-172, 1994
おわりに
本記事では、腰痛とコアの関係性について軽くまとめました。
臨床では腰痛の原因を探らなければなりません。
スマートフォンなどの端末の普及やデスクワークなどの長時間座位などの生活習慣が原因の場合ももちろんあります。
色々な視点から原因を見つけていきましょう。
この記事が皆様の臨床の一助になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。