みなさんはご存知の通り、肩甲上腕関節には、安定化機構というものが備わっております。
なぜだかわかりますか?
実は、肩甲上腕関節は、他の四肢と比べて特別大きな可動性を有しているんです。
何が言いたいかというと、かなり広範囲の運動を行えるということ。
ですが、この広範囲の運動は、肩関節が骨構造的に不安定になっているからこそ、成り立っているんです。
この不安定さがあるため、肩甲上腕関節には、様々な安定機構が備わっています。
ということは、
この安定機構が正しく働かなければ、肩関節可動域の制限になりうるということですね。
現在肩関節疾患で難渋している患者さんはいませんか?
患者さんのためにも改めて、この安定機構について考えてみてください。
臨床が少し変わるかもしれません。
それでは、静的安定化機構と動的安定化機構の2つに分類して解説していきます。
肩甲上腕関節における静的安定化機構
静的安定化を構成する組織は以下の3つが存在します。
・関節包
・関節上腕靭帯
・関節唇
この3つの組織がそれぞれ重要な役割を果たしています。
関節包と関節上腕靭帯
まず、関節包とは、近位が関節唇の周囲、遠位が大結節・小結節から解剖頸にかけて付着する組織です。
一部の肥厚した部分が関節上腕靭帯と呼ばれ、弾力性を高めています。
この2つを合わして、関節包靭帯と呼ばれたりします。
この関節包は、4つの腱板筋群(ローテーターカフ)がくっついており、腱板筋群の張力が関節包の緊張を高めることで、肩甲上腕関節のの安定化を図っています。
さらには、関節内圧という存在が、陰圧に保たれていることが、安定化のために必要不可欠になっています。
ちなみに、正常な肩甲上腕関節の関節内圧は、上肢下垂位で-50cmH2Oと陰圧に保たれています。
こちらが関節包に付着している腱板筋群の分布です。
肩関節包 上方 | 棘上筋 |
肩関節包 前方 | 肩甲下筋 |
肩関節包 後上方 | 棘下筋 |
肩関節包 後下方 | 小円筋 |
関節唇
関節唇は、関節窩の周りを取り巻くように付着する組織です。
浅いくぼみを深くすることで肩関節の安定性を高めています。
関節唇の厚さは、前方、後方、上方において、約3mm、下方は4mm弱であり、下方の方が深い構造になっています。
しかし、上方の関節唇は関節窩との結合が緩いため、上腕骨頭の上方を走行し上方の関節唇に付着する上腕二頭筋腱長頭が上腕骨頭の上方変位を軽減させていると言われています。
これらの組織で静的安定化を図っています。
ただ関節包では各方向で伸張する部分が異なるため、制限因子も一定でありません。
それでは、関節包制限因子について確認していきましょう。
その前に…
関節包全体の緊張が均一になる角度を知っていますか?
この肢位でコントロールすることで、関節内圧が一定化して、痛みの発生頻度が減ってくるようになります。
それでは本題へ。
上方構成体
肩関節を下垂位にすることで上方関節包が緊張します。
この上方関節包の張力によって、骨頭を関節窩に引きつけることと、上方からの支持を行なうことができます。
さらに、前上関節上腕靭帯(Superior Glenohumeral Ligament:SGHL)や中関節上腕靭帯(Middle Glenohumeral Ligament:MGHL)の存在が、上方関節包を補強しています。
下方構成体
肩関節を肩甲骨面上で外転すると下方関節包が緊張します。
こちらも、骨頭を関節窩に引きつけることと、下方からの支持を行なうことができます。
前下関節上腕靭帯(Anterior Inferior Glenohumeral Ligament:AIGHL)や後下関節上腕靭帯(Posterior Inferior Glenohumeral Ligament:PIGHL)、腋窩陥凹(Axillry Pouch:AP)が存在し、下方関節包を補強しています。
前方構成体
肩関節の外転では外旋領域内での運動であることから、あえて肩関節外旋を行わなくても、前方関節包が緊張します。
この前方関節包の張力によって、骨頭を関節窩に引きつけることと、前方からの支持を行なうことができます。
外転初期では、SGHLを中心として前上方関節包が緊張しますが、角度が増大するにつれ、徐々に以下の部位に緊張の部位が変化します。
①前上方関節包・SGHL・CHL
第1肢位肩関節外旋により、前上方関節包、SGHL、烏口上腕靭帯(CHL)が緊張。
この組織の緊張は、第1肢位における、骨頭の前方不安定性を制動する。
②前方関節包・MGHL
肩関節軽度外転位(約45°)により、前方関節包とMGHLが緊張。
この組織の緊張は、軽度外転位における、骨頭の前方不安定性を制動する。
③前下方関節包・AIGHL
肩関節第2肢位外旋により、前下方関節包とAIGHLが緊張。
この組織の緊張は、第2肢位における、骨頭の前方不安定性を制動する。
後方構成体
肩関節の屈曲は、内旋領域内の運動であることから、あえて内旋運動を加えなくても、後方関節包が緊張します。
この後方関節包の張力によって、骨頭を関節窩に引きつけることと、後方からの支持を行なうことができます。
屈曲初期では、後上方関節包が緊張しますが、角度が増大するにつれ、徐々に以下の部位の緊張が変化します。
①後上方関節包
肩関節第1肢位内旋により、後上方関節包が緊張。
この組織の緊張は、第1肢位における、骨頭の後方不安定性を制動する。
②後方関節包
肩甲骨を肩甲骨面上に軽度外転位(約45°)で内旋すると、後方関節包が全体として緊張する。
この組織の緊張は、結滞動作や肩関節伸展位からの内旋により、緊張する。
③後下方関節包・PIGHL
肩関節第3肢位内旋すると、後下方関節包やPIGHLが緊張する。
この組織の緊張は、第3肢位における骨頭の後方不安定性を制動する。
動的安定化機構
先ほど説明した、肩甲上腕関節における静的安定化機構とともに、動的安定化機構が存在しています。
・腱板筋群(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)
・上腕二頭筋腱長頭
上記の動的安定機構により、関節窩に対する上腕骨頭の求心性が維持されています。
腱板筋群(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)
腱板筋群は、関節包や関節唇の周囲を包むように走行し、大結節や小結節に付着している組織です。
この腱板筋群の張力は、支点形生力に直接関与するとともに、関節包の緊張を効率よく高め、肩関節の求心性を高めています。
ここで重要になるのは、2つのフォースカップル機能です。
・棘上筋と三角筋とのフォースカップル(安定した肩関節外転運動が遂行される)
・肩甲下筋と棘下筋、小円筋とのフォースカップル(内旋筋と外旋筋による骨頭求心位力が働く)
上腕二頭筋腱長頭
上腕二頭筋腱長頭(LHB)は、肩甲骨関節上結節、関節唇の上縁から後縁にかけて付着する組織です。
上腕二頭筋腱長頭の特徴⬇️
・第1肢位での内旋位では、上腕骨頭の前内側を滑走し、腱の緊張が低下。
・第1肢位での外旋位では、上腕骨頭の頂上を滑走し、腱は適度に緊張。
外旋位では、骨頭の直上を滑走するため、骨頭を下方へ抑え込む力が働き、腱板筋群と同様に支点形成力が発生します。
つまり、腱板筋群の機能が低下していても、外旋位からの外転運動では、LHBが支点形成に関与し、理論上は挙上可能となります。
簡単に解説すると、上腕二頭筋腱長頭は、回旋肢位により、走行する位置と緊張が変化するということ。
また、第1肢位での内旋位では、腱の緊張は低下し、外旋位では、緊張して、骨頭を上方から押さえつける作用が働くってことになります!
まとめ
今回は、肩甲上腕関節における安定化機構について解説しました。
この機構は臨床においても非常に重要になります。
画像やDr情報からも、これらの組織の状態は把握することができます。
その組織が本当に正常に働いているのか、確認することで、問題点が明確になってくることでしょう。
この記事が皆様の臨床に役立てれば、幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。