・肘部管症候群について詳しく知りたい
・尺骨神経麻痺って結局なに?
このような疑問を解決する記事になっています。
臨床で、「尺骨神経麻痺」「肘部管症候群」というキーワードが出てきたときに、何でこの症状出ているんだろう?って思ったことはありませんか?
僕自身、ボヤーっと理解していたのですが、解剖学的視点でお伝えすることができなかったので、実際にまとめてみました。
本記事を読み終えると、『肘内側の痛みの原因と肘部管症候群、尺骨神経障害の問題点となる部位』を理解できるようになり、臨床で焦らずに済むと思います。
・肘内側の痛みの原因について解説
・前腕屈筋群の問題点を解説
・尺骨神経障害の問題点を解説
目次
そもそも肘内側の痛みの原因ってなにがあるの?
臨床で多くみられる肘内側の痛みの原因は、
結論、「肘内側に加わる力学的ストレス」が多いですね。
肘関節は屈曲、伸展を繰り返す関節ですので、常時微細な力学的ストレスが生じています。
その力学的ストレスの中でも、肘関節では「伸張ストレス」が原因になりやすいです。
肘関節は生理的外反を伴っている関節です。
外反しているということは、肘内側には「伸張ストレス」が加わっており、さらに屈曲することで肘関節内側にはさらなる伸張ストレスが加わると言われています。
つまり、肘関節は構造上、肘内側には伸張ストレスが生じやすく、肘内側の問題になりやすいということです。
肘内側でもどの部位に問題が起きやすいの?
肘関節内側の中で伸張ストレスにより問題が起きやすい部位は以下の3点です。
・内側側副靱帯(MCL)
・前腕屈筋群
・尺骨神経
この問題点に対して少し深掘りしていきます。
内側側副靱帯(MCL)
内側側副靭帯は肘関節の内側に付着しており、肘関節の外反を制動する役割を持っている靭帯です。
MCLは解剖学的に3つの線維に分類することができます。
・前斜走線維(AOL)
・後斜走線維(POL)
・横走線維(TL)
AOLは付着部の関係から、肘関節屈曲・伸展で伸張部位が変化します。
肘関節伸展位:AOL前方線維が伸張
肘関節屈曲位:伸展位よりもAOL後方線維が伸張
POLは付着部の関係から、肘関節屈曲で、肘関節伸展位の2倍の伸張が行われる。
これらの靭帯の特徴を集約させると以下の問題が導かれる。
・内側側副靱帯のうち、伸展時にはAOLの前方部分が緊張し、屈曲時にはAOLの後方部分とPOLが緊張する。
AOLが屈曲伸展でどちらにも影響を及ぼすため、MCL損傷や損傷後の瘢痕がAOLに発生すると、肘関節屈曲と伸展どちらの制限にもなってしまいます。
さらに、POLに瘢痕が発生した場合は、肘関節屈曲可動域が制限されることになるので、最終屈曲時には肘関節内側の痛みが出現する可能性があります。
この瘢痕が問題点になりやすいですね。
前腕屈筋群
前腕に付着する筋は主に以下の5つです。
・円回内筋
・橈側手根屈筋
・尺側手根屈筋
・長掌筋
・浅指屈筋
この5つの筋全てが、「上腕骨内側上顆」に付着するという特徴を有しています。
解説していきます。
前腕屈筋群とMCLは深い関係があると臨床ではよく言われることです。
その関係とは、MCL(AOL)は尺側手根屈筋と浅指屈筋と同じ走行をしているため、この両者の筋がMCLとともに肘関節外反の制動をしていることです。
ここで次にこの前腕屈筋群に5つの問題が生じてきます。
・前腕屈筋群の伸張性低下
・前腕屈筋群の筋力低下
・過度な外反肘
・肩関節周囲筋の筋力低下
・肘関節屈曲および伸展可動域制限
それぞれ解説していきます。
前腕屈筋群の伸張性低下
前腕屈筋群は全て「上腕骨内側上顆」に起始します。
そのため、前腕屈筋群の伸張性が低下していると、単純に上腕骨内側上顆に伸張ストレスが加わってしまうんですよね。
前腕屈筋群の中では尺側手根屈筋や浅指屈筋など、MCLを覆う筋あります。
この筋の伸張性が低下するとMCLに伸張ストレスが加わり、疼痛が誘発する可能性があります。
前腕屈筋群の筋力低下
前腕屈筋群はMCLとともに肘関節外反制動に貢献しています。
そのため、前腕屈筋群の筋力低下があると相対的にMCLへの伸張ストレスが増強する可能性が考えられるんですよね。
そして、もともと前腕屈曲筋力が低下していると、負荷が小さい運動でも、その人にとってはオーバーワークになってしまい、さらなる伸張性低下につながることもあります。
過度な外反肘
肘関節は生理的に軽度外反しています。
この肘関節外反が増強すると、同時にMCLの伸張ストレスがより増強することになります。
肩関節周囲筋の筋力低下
上腕三頭筋や外旋筋群の筋力低下すると、肘屈曲、内旋、前腕回内などが優位になってしまいます。
これにより、常時前腕屈筋群が短縮位なっているので、上記のオーバーワークや伸張性低下に繋がってしまいます。
肘関節屈曲および伸展可動域制限
肘関節は可動域制限が生じると、肘関節の側方不安定性が増加してしまいます。
肘関節屈曲時:上腕骨鈎突窩に尺骨鈎状突起がはまり込み骨性の安定性向上
肘関節伸展時:肘頭窩に肘頭がはまり込み骨性の安定性向上
可動域に制限が生じると、この最終可動域のはまり込みが不十分となるので、側方不安定性が強まってしまい前腕屈筋群の筋力が発揮しにくい状態になってしまいます。
続いては尺骨神経の問題点になります。
尺骨神経
支配領域
尺骨神経は手関節掌屈、小指・環指屈曲、母指内転、母指以外の手指内外転の運動を支配しています。
また、第4・5指の手内筋とその領域の知覚を支配する。
神経の走行(通り道)
尺骨神経は、下神経束より分岐して、上腕動脈とともに上腕内側を下降し、上腕骨内側上顆の後方を通過した後、前腕内側を下降します。
手関節レベルではGuyon管と呼ばれる絞扼部位を通過しています・
まとめると、尺骨神経は肘関節の近くで3つの神経絞扼部位を通過することがわかります。
・内側二頭筋溝
・肘部管
・尺側手根屈筋
それぞれ、どのように尺骨神経を絞扼しているのか解説していきます。
内側二頭筋溝(Struther’s arcade)
内側二頭筋溝は、上腕三頭筋内側頭と上腕二頭筋の間隙のことを指します。
その間隙の中を尺骨神経が上腕動脈とともに走行しています。
そのため、上腕二頭筋や上腕三頭筋が異常に発達すると上腕筋膜が肥厚し、筋の間隙が狭くなります。
結果、尺骨神経が圧迫されることにつながります。
肘部管
尺骨神経は、内側二頭筋溝を通過した後、上腕骨内側上顆の後下方に位置する尺骨神経溝を通過します。
この尺骨神経溝の表層には、滑車上肘靭帯が存在しています。
尺骨神経溝と滑車上肘靭帯との間部分が、肘部管と呼ばれるところになります。
本来、滑車上肘靭帯は肘関節完全屈曲位で緊張すると言われているのですが、この靭帯が肥厚し90~120°でも緊張するようになると、過剰に緊張してしまい、尺骨神経が肘部管で絞扼されてしまいます。
肘関節内側の近くを支配する関節枝は肘部管内で分岐します。
そのため、分岐部より高位にある内側二頭筋溝や肘部管で圧迫されると、肘内側に疼痛が発生してしまいます。
尺骨神経が肘内側で関節より少し末梢にある尺側手根屈筋下の肘部管を通過する際に生じる絞扼性神経障害。
主な症状は、小指、環指尺側にかけての感覚障害と、鉤爪変形、骨間筋萎縮、握力低下。
尺側手根屈筋
肘部管を通過した後、尺骨神経は尺側手根屈筋の深層を通過していきます。
尺側手根屈筋は上腕頭と尺骨頭に分かれており、その間にはOsband’s band と呼ばれる腱膜様の組織が存在しています。
尺側手根屈筋への過度なストレスにより腱膜が肥厚すると、同部位においても尺骨神経の絞扼が生じてきます。
肘部管症候群の患者さんで臨床上多い問題点は以下の2点が多いとの報告もあり。
・肘部管周囲での尺骨神経の広範な瘢痕と癒着
・尺側手根屈筋膜縁部での絞扼
まとめ
みなさんいかがでしたでしょうか?
今回は『肘関節内側の中で伸張ストレスにより問題が起きやすい部位』について、解剖学的視点から解説してみました。
少しは皆様の臨床の糧になりましたでしょうか?
少しおさらいしましょう。以下が問題になりやすい部位です。
・内側側副靱帯(MCL)
・前腕屈筋群
・尺骨神経
臨床で結果を出すために、解剖学的視点を持ちながら、毎回の臨床に取り組んでいきましょう!
僕は一生勉強していきますので、皆様も一緒に勉強していきましょう!!
最後までお読みいただきありがとうございました。